差動増幅回路の小信号等価回路への書き下し2

 下記記事の続き。

karamimochi.hatenablog.com

 仕事の締め切りと、勉強ネタで意図せずして嘘八百書くのは気が引けるので復習してたら遅くなりました。

 今回はディスクリート素子の小信号等価回路について。

ざっくりなDC動作点の決め方。

DC的な詳細な動作点の決め方はぶっちゃけ面倒くさいので別途教科書を見てください。

参考図書:

岡山努著 コロナ社 アナログ電子回路設計入門

故人だが生前のブログが好きだったので買った一冊。実際の設計に近い泥臭い話が書かれている。 理論的な話が少ないので、「トランジスタの動作原理は勉強したが実際の設計はどうするんじゃい!」的な人が見る本だと思う。

 

室温近辺の話だけなら割とエイヤーでどうにかなります。

小信号バイポーラトランジスタの場合、以下の関係を覚えておくと大雑把なあたりはつきます。符号は違いますが絶対値で言えばnpnもpnpも大体このイメージ。

  • コレクタ電流Ic=1mAでベース電圧Vbe≒0.6V
  • コレクタ電流Ic=0.1mAでベース電圧Vbe≒0.5V
  • コレクタ電流Ic=10mAでベース電圧Vbe≒0.7V

JFETやMOSFETは千差万別過ぎるので省略。

DC動作点を雑にあたりつけられるバイポーラトランジスタは偉大です。

会社の大先輩は「バイポーラトランジスタには神が宿っている」なんて言ってましたが割と同意します。

低温や高温の話をし出すと泥沼なので省略します。

ロシア、北極、南極で動く回路作ってる人ってすげぇなと思いますまる(小並感)

 

 ディスクリート素子の小信号等価回路

 

教科書的にバイポーラトランジスタの小信号等価回路はこんな感じに書かれていることが多いと思います。

NPNの場合

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PNPの場合

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ベースエミッタ間電圧VbeのようなDC要素は省略しています。

Cobは教科書的には、トランジスのミラー効果に関わる容量として、

小信号バイポーラトランジスタのざっくりのイメージ値を記入しています。

ベース入力抵抗rinと出力抵抗routは温度とDCバイアス条件で大きく変わるので値は省略。

注意事項として

base端子から信号を入力する増幅回路を設計する場合、rinの値に対して十分小さな出力インピーダンスの信号源を用意することに留意しましょう。

実効的な入力振幅が、入力信号源の出力インピーダンスとrinで分圧され、意図した入力振幅よりも大幅に減衰している可能性があります。

また、出力抵抗routはバイポーラトランジスタの場合、

いわゆるアーリー電圧VAとコレクタ電流Icから計算されます。

rout=VA/Ic

 

 

Gはコレクタ電流Icと熱電圧Vtで決まる値です。

Vbeの電圧変化ΔVbeでコレクタ電流Icがどれだけ変化するかの係数。

一般に順方向伝達コンダクタンスgmと呼ばれます。単位はS=A/Vでジーメンスと呼びます。

トランジスタの品種によって変化するけど、以下の式で精度10%ぐらいのあたりはつきます。

gm=Ic/Vt

Vtは温度で変わりますが室温と仮定すると約26mVです。

仮にIcが1mAだった場合の計算をすると

gm=1mA/26mV=0.0384S → 38.4mS

です。

 この値が利得計算では重要になります。

 

簡単な増幅回路の利得計算

単純なNPNトランジスタのエミッタ接地回路を使った増幅率の計算例を示します。

以下の前提をおいています。

1.室温で動作しているものとしてQ1の順方向伝達コンダクタンスgmは38.4mSとして計算。

2.Cobに由来したミラー効果が無視できるような十分低い周波数の信号。

3.出力インピーダンスが0の理想入力信号源のため、ベース入力抵抗rinに由来する入力振幅の誤差は無しと見なす。

4.また、出力抵抗routはR1よりも十分大きな値のため計算上の誤差は無視できるものと見なす。

 

V2は理論上Q1のコレクタ電流を1mAdcにバイアスするための仮想的な直流電源です。

これに相当する実物を真面目に作るのは地味に面倒くさいことを述べておきます。

雑で良いなら方法はありますが多分「気持ち悪い」とか「雑すぎないか?」言われるような回路になります。あくまでも下図回路は計算例を示すための方便です。

 

V1はAC入力信号源です。振幅は1mVacとしています。

これはDC的に動作が破綻しない例として小さい振幅にしています。

この場合、図中の計算式にあるように出力端子voutで得られる振幅はvinの38.4倍です。

 

 

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仮に30mVacを入力すると計算上は1152mVacの振幅が得られますが

コレクタ電流の変化ΔICは

ΔIC=38.4mS×30mV=1152uAac → 1.152mAacです。

バイアスしているコレクタ電流Icの1mAdcを超える電流変化が必要となるため

voutの出力波形の上側が1.152mAac - 1mVdc/0.707 = 0.445mVac分クリップした歪み波形となってしまします。

R1に相当する抵抗は所望の入出力信号に対して適正なものを選びましょう。

まとめと 次回予告

バイポーラトランジスタの小信号等価回路の表現と

単純な増幅回路を用いた増幅率の計算例を示しました。

順番が前後しましたが次回は基本的な増幅回路の特性について述べていきます。