センサの基本の基本

よく「高精度のセンサが~」なんて技術系の新製品のニュースに載ったりしますが”高精度”を達成するためには色々あるんだよって電気屋さんのお話。

直接的なEMCノイズの話は今回の対象ではありません。

高精度≒高SN比

高精度と一口に言うと色々ありますが、基本的に「細かい物が見つけられる」、「僅かな変化を区別できる事」を意味します。

それを実現するための必要条件は何か?というと二つあります。

1.Signal(目当ての信号)が大きいこと

暗闇の中でごま粒を探せと言われても無理です。

虫眼鏡で大きく見えるようにするなり、目標物を野球ボールサイズに変更して貰うなり目当てのものにある程度の大きさが必要です。

 

2.Noise(目的以外の余計なもの。雑音)が小さいこと

まわりがうるさい雑音だらけの中で聞き漏らし無く話を聞くのは無理です。

静かな場所に移るか、余計な雑音を無視するテクニックが必要です。

 

1と2が両方バランス良く達成されて初めて高精度が実現されます。

そのため、電気回路に限らず物事を評価する上で、どの程度うまく目当ての物が見つけられて居るかを判断するのに

Signal Noise RationいわるゆSN比という信号の大きさとノイズの小ささの比が物差しとして使われます。

 

赤玉の温度計とかはともかく、今時の高精度と称されるセンサは基本的に電気回路に接続され、センサから電気(電圧・電流)を供給されて動きます。

図にするとこんな流れです。

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センサの定義ですが、ここでは測定対象の何らかの物理的なもの(温度・光量・力等)を電気信号に変換するものとしています。

最終的に人間が温度を知ったり、AIやロボットと言った機械が判断するための情報としての体裁を整えるシステムを考えています。

高Signalを得る基本戦略

結論を先に言うと必要十分なエネルギー(≒電力orコストor時間)をぶち込め

 

 

①のセンサでは測定対象にできるだけ大きく・できるだけ密着させること、センサに悪影響の無い範囲で駆動の電力を大きくするとSignalが大きくなります。ちなみにセンサの大きさor数はたいていの場合、材料費という形でお値段に跳ね返ってきます。

図にある時間は測定時間を長くすることで時間軸方向に積分したSignalを大きくする事を意味します。

日光写真の日に当てる時間と鮮明さの関係を想像するのが一番身近でしょう。

悪影響の無い範囲というのはセンサによって千差万別ですがセンサが燃えて壊れたり、氷の温度を測りたいのに氷を溶かすような熱々の条件でセンサを動かしてはだめというお話です。

②のアナログ回路はデジタル回路で処理するには小さすぎる信号を大きくするための物です。少なくとも数個の素子を組み合わせる事になりますが、信号増幅可能な倍率は基本的に素子のお値段と動かすのに必要な電力にある程度比例します。

③のアナデジ変換はコンピュータで扱えるよう変換する物です。②で適切に増幅されたと仮定した信号をどれだけ細かく(1か0の二通りか99から0までの百通りかの様に)分解できるかは素子のお値段と動かすのに必要な電力と時間にある程度比例します。

信号処理で高Signalを得る基本戦略は③の信号を時間軸方向に積分していくことになります。

低Noiseを得る基本戦略

結論を先に言うと必要十分なエネルギー(≒電力orコストor時間)をぶち込め

 

 ①のセンサで余計な雑音に晒されないように遮蔽するor周りから離すことです。左側の明るさや温度を測りたいのであれば、右側からの明るさや温度は仕切りを設けて遮断しましょう。基本的に仕切りは大きく頑丈で、周りから遠くに隔離できる方が望ましいですがお値段に跳ね返ります。

②のアナログ回路の基本戦略は3つ。センサとの距離を最短距離にする事、素子の性能で十分低ノイズな物を用意すること、②の出力は必要最低限の速度に落とすこと。センサの出力線はもっともノイズを拾いやすい箇所なので極力短い方が好ましいです。ただ、前者二つの戦略をとるのはお値段と電力がかかる傾向にあります。最短距離にするとお値段がかかるというのはセンサの近くというのは、測定対象のせいで大抵熱かったり寒かったり振動してたりするので素子にも特殊(≒高い)な物を要求されがちだからです。特殊環境で動くためのマージンとして電力も同様です。ノイズは基本的に回路が動く速度に比例して増えます。なので増幅後、欲しい信号の変化よりも速い成分はバッサリカットしましょう。

③のアナデジ変換で低ノイズにするのは②の出力に極力近接させることです。①ー②間ほどでは無いですがノイズが入りうる経路は極力短くしましょう。最近だとアナログフロントエンド(通称:AFE)と呼ばれる②と③が一体化したICが売られています。主要な種類のセンサに最適化された物が色々と出ています。

④の信号処理の低ノイズ化基本戦略は時間をかけて平均を取ること、Signalはある程度一定ですがノイズ成分はランダムであることが多いので平均を取ると大体消えます。単純な平均処理であれば低コストでも可能ですが、信号の特徴を使って統計など駆使して余計な雑音をさらに除去しようとすると処理の複雑さに比例して時間と電力か高性能高コスト高電力なコンピュータが必要になっていきます。

まとめ

何をするにも、センサにはある程度のエネルギー(≒電力orコストor時間)が必要です。

とりあえず計れればどうででも良い用途ならともかく

安く、早く、小さく、高性能、低消費電力の全て最高レベルで達成するのは無理です。

 

量産を考えると作りやすさ(人の手間がかからない、変な機械加工や調整が少ない)も必要です。 

 

適切に取捨選択した目標値を設定した上で、新技術なり新手法なりの技術者の工夫が盛り込まれて初めて高精度なセンサが世に出ます。

技術者は工夫をひねり出すために七転八倒するのです。

逆に趣味なり研究段階で「無茶と知りつつこれが計りたい!」みたいな場合、早期実現の近道は金に糸目をつけず、大きな既存の高性能品を組み合わせる事です。日本のノーベル物理学賞を受賞した研究から例を出すとスーパーカミオカンデが該当します。隣の芝生は青く見える理論的には、そこまで良い物でも無いのでしょうが。

 

後、雑談ですがコンピュータは基本的に低電圧・大電流にしつつ短時間の処理にすることで時間軸に積分したときの電力を節約する方向に進化しています。

高電圧・低速応答のセンサとは相性の悪い方向に進んでいるのでご注意を。

 

会社の後輩と話をすると今回の話のような認識が頭から抜けている事が多いことに気づいたので愚痴っぽいですが書きました。